多重人格カップル

僕には彼女がいるのだけれど、この関係が変わっている。
年は13歳離れているので、よくどう言う関係か聞かれる。説明が難しいので友人ですと答えている。しかし付き合っているのだから一見すると体が女同士なのでレズともとれる。
しかし僕が男なので彼女からすると間違いなく男の人と付き合っていると言う感覚らしい。
そしてお互い多重人格こと解離性同一障害だ。
かなりのレアカップルだと思う。

出会いは東京の下町。知り合いが東京で家を借りられず困っていたのでルームシェアをすることにして引っ越したことにある。引っ越ししたのは別の人格なのだけれどその話は割愛する。
ルームシェアできることになって知り合いが引っ越しをとある親子に手伝ってもらったらしい。せっかくだからと紹介された親子の娘のほうが彼女だった。

とは言えその時会ったのは引っ越しをした女の人格で、僕が知り合ったのはその後となる。
何故か年下の彼女になついてしまった女の人格はあろうことか多重人格のことを話してしまう。その時、よりにもよって僕の話をしたら彼女が話したいと言ってきたようで、電話で話すことになったのが始まりだ。
軽い自己紹介のあと、夜中だと言うのに電話で二時間話し通した。会おうと意気投合し、日も昇らないうちに落ち合った彼女には彼氏がいたと知る。僕は年上なこともありよき友人に徹したが、後々ろくでもない彼氏だと知り彼女を奪ってしまった。

めでたしめでたしと普通ならここでハッピーエンドなのだが、これこそプロローグにすぎなかった。
女の人格と仲良くなった彼女は同じ部屋に転がり込む形でルームシェアをする。しかし綺麗で優しいはずの彼女が時々めっためったに女の人格をいじめることがあった。
後でどうしてそんなことをしたのかと聞くと驚いた様子で記憶にないと言う。そんなことが続いて、彼女の様子をうかがっているうちに多重人格だと気づいたと言う訳だ。
彼女は僕を含めた人格の全員と仲良くなり大切にされたが、彼女の他の人格はまったく違った。
彼女のふりをしながら彼女の隙を見てこちらの人格を攻撃する人格たち。女の人格など泣かされてしまった。報告するたび悲しむ彼女と関係は良好とは言えなかったが、知り合いとのルームシェアの期限だった2年を迎え引っ越しして二人できちんと同棲を始めた。

しかし引っ越し先でも彼女の他の人格からの嫌がらせは続いた。記憶をなくすこともしばしばで、話をしても声が頭に入ってこないことを説明せず、生返事をすることを繰り返す彼女とのあいだにはしょっちゅう問題が起きていた。
何とか良くなってもらいたいと、同棲を始める前から精神科に付き添って通わせていたのだが多重人格の話は伏せていたので成果はみられなかった。体の調子もだんだんと悪くなり、いつしかほとんど寝たきり状態。辛い時期でもあった。
彼女を説得して僕がお世話になっていた地元の病院へ電車で二時間かけて通院することにした。先生に勧められカウンセリングをうけることになったのだが、なんと彼女の人格の一人が興味をもってこれに参加するようになった。
多重人格だと言うことも先生に伝えて治療を続けたが、相変わらずの体調だった。それでも通院は不思議と必ず続けられていた。彼女以外の人格の協力を得られた成果かも知れない。

通院は毎週で大変だったが、かえってこれが転機となる。通院が二時間もかかるせいで、東京から病院のある地元へ引っ越したいと言う思いが湧いたのだ。その頃、今娘のように可愛がっている猫との出会いがペットショップであり、彼女がどうしても飼いたいからと猫を飼える家に引っ越そうと地元へ移る。
うまくいかないことは多かったが、彼女の中にいる小さな女の子の人格と話ができるようになり、その女の子に教えてもらう形で僕たちをいじめていた人格たちの筆頭を暴くことに成功する。
なんと僕たちをいじめていた人格たちの筆頭は彼女のことを好きだった男の人格だったのだ。それを彼女に説明すると、そんなことはしてほしくないと言う彼女の気持ちが伝わったのかはたまた暴かれてばつが悪かったのか人格たちが僕たちをいじめることは不思議となくなっていった。

今とても幸せを感じている。
娘のように可愛がっている猫と優しくて綺麗な彼女との穏やかな生活。正直幸せボケしてしまっているのではと思うほどだ。
問題の全てが解決したわけではないが、これからも彼女を大好きな僕たちと彼女とで少しずつ解決へ努力し続けていこう。