娘との出逢い

僕にはスコティッシュフォールドの娘がいる。
つまり猫だ。
三毛猫の柄を水で溶かしたような、一見すると白猫に見間違えるほどの淡く綺麗な三毛猫。
東京に住んでいた時、正月中に行ったペットショップで出逢った。
よくなついて、彼女はずっと抱っこしたまま僕には抱かせてくれなかったことを思い出す。後で知るがニットがとても大好きだったので、その日ニットを着ていた彼女に大人しく抱かれていたらしい。
一緒に住むには猫を飼えるアパートへ引っ越さなければならなかったが彼女の強い要望で、すでに猫を飼っていた僕の母に引っ越し終えるまで預かってもらう形で生活は始まった。

僕の地元にある病院へ彼女を通院させるため、実家へ一週間に一度泊まっていたのでしばらくは週一での娘との生活。小さな子猫はあっと言う間に大きくなった。
引っ越し先も決まり、迎えた引っ越し当日。時間になっても業者が来ない。おかしいと思い電話で確認してみると引っ越し業者の思い込みでキャンセルになっていた。もうガスも電気も水道も止める手続きを終えていたし、日を改めるとなると業者が忙しい3月だったためいつになるかわからない。家具の回収を頼んでいた何でも屋に急遽頼んで来てもらうことにした。
二時間後、到着した車2台はただの軽トラだった。
何でも屋からの条件は自分達も段ボールを一緒に運ぶと言う肉体労働つきだったがなんとかこなした。風が強かったため、高速道路を移動中冬物のコートをまとめた袋がふっとんで消えた。あとで紛失したコート代だと代金から一万円返してくれたが、失ったコートは一着だけだったと信じていたらしい。

ここまで苦労しての引っ越しとなったが全ては娘と一緒に生活するため。娘を迎え入れ始まった新生活だったが、賃貸の一軒家は巨大な蜘蛛と蟻の行列が止まない隙間だらけで歪みきった問題物件だった。夏になると大量の蜂が飛び交うため窓が開けられなくなり、鉢植えは枯れた。娘は次から次に屋内へ入ってくる虫たちをおもちゃとばかりにハンティングし、お洒落な梁が見えるロフトから梁に飛び乗り降ってくる始末。
大屋さんが趣味で建てた家は歪みきっていてビー玉を置くとあちこちばらばらの方向に勢いよく転がった。床下にはアライグマの親子が住みつき聞いたこともない声が響き渡り、娘が威嚇していた。
いつしか二人で体調を崩し、眼精疲労に頭痛と吐き気と下痢に見舞われた僕は新しい働き先を見つける余裕もなく彼女に全てまかせて半年で再び引っ越すこととなる。

今度の引っ越し業者はしっかりした人たちで気持ちよく働いてくれた。階段のきつい立地から車の入り込めない新居へ見事荷物を運び切ってくれたこと感謝する。
再びの新居はアパートだったが僕たち以外は借りていないので気兼ねなく快適な生活ができた。引っ越し終えたその日の夕飯時には吐き気も下痢も治りもりもりご飯は食べていたし、頭痛も眼精疲労も治まっていた。ご近所さんはすごく好い人たちばかりで小さな夢だった家庭菜園まで手伝ってくれて、もはやここまでトントン拍子だと東京から引っ越したあの日からの予測もできない困難な日々はこの幸せのためだったのではと思ってしまう。
娘と出逢ったあの正月の日から本当に色々なことが起こった。二度と同じ目には会いたくないが、二人と一匹の生活のために乗り越えられたことを誇りに思う。家族一同がそれぞれに大きく成長できた激動の日々よありがとう。